2026年7月09日
「数か月前に転んだけれど、大したことはなかった。」
「最近、物忘れがひどくなった。」
「歩くのが遅くなり、ふらつくようになった。」
「家族から性格が変わったと言われる。」
このような症状がある方は、「慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)」という病気が隠れていることがあります。
慢性硬膜下血腫は、高齢者では決して珍しい病気ではありません。しかし、適切な治療によって劇的に改善することが多く、「治る認知症」「治る歩行障害」とも言われています。
今回は、慢性硬膜下血腫について、その原因、症状、診断、治療、予防について詳しくご紹介します。
慢性硬膜下血腫とは?
脳は頭蓋骨の中で、硬膜・くも膜・軟膜という3枚の膜に包まれています。
慢性硬膜下血腫とは、このうち「硬膜」と「くも膜」の間に少しずつ血液がたまり、脳を圧迫する病気です。
「血腫」とは血液のかたまりのことです。
脳出血のように突然大量に出血する病気とは異なり、数週間から数か月かけてゆっくり血液がたまっていくため、「慢性」という名前が付いています。
そのため、本人も家族も頭をぶつけたことを忘れてしまっていることが少なくありません。
なぜ起こるのでしょうか?
最も多い原因は軽い頭部外傷です。
例えば
・転倒した
・自転車で転んだ
・ベッドから落ちた
・頭を棚にぶつけた
・軽い交通事故
など、一見すると「病院へ行くほどではない」と思える程度のケガでも起こることがあります。
若い人では脳が頭蓋骨の中でしっかり支えられていますが、高齢になると脳は少しずつ萎縮します。
すると脳と頭蓋骨の間に隙間ができ、脳表面を走る細い静脈(架橋静脈)が引っ張られやすくなります。
軽く頭をぶつけただけでも、この静脈が傷つき、少量の出血が起こります。
その後、血液を包む膜が形成され、その膜から新しい細い血管ができることで、少しずつ出血を繰り返します。
これが何週間も続き、血腫が徐々に大きくなって脳を圧迫するのです。
特に注意が必要な人
慢性硬膜下血腫は誰にでも起こりますが、次のような方では特に起こりやすくなります。
・65歳以上の高齢者
・転倒しやすい方
・認知症のある方
・飲酒量が多い方
・脳萎縮がある方
・抗血栓薬(血液をさらさらにする薬)を服用している方
代表的な薬としては、
・アスピリン
・クロピドグレル
・ワルファリン
・アピキサバン
・リバーロキサバン
・エドキサバン
などがあります。
これらの薬を飲んでいる方は、軽い頭部打撲でも念のため医療機関を受診することが大切です。
症状はさまざまです
慢性硬膜下血腫の症状は非常に多彩です。
頭痛
比較的多い症状です。
ただし、高齢者では頭痛が目立たないこともあります。
歩きにくくなる
・歩幅が狭い
・足が出にくい
・ふらつく
・転びやすくなる
といった症状がみられます。
「年齢のせいかな」と思われがちですが、実は慢性硬膜下血腫だったということもあります。
認知症のような症状
・物忘れ
・ぼんやりする
・反応が遅い
・会話が少なくなる
・意欲が低下する
認知症が急に悪化したように見えることがあります。
治療後に元の状態まで改善する患者さんも少なくありません。
手足の麻痺
血腫が大きくなると、片側の手足に力が入りにくくなります。
脳梗塞と間違われることもあります。
言葉が出にくい
左側に血腫がある場合には、
・言葉が出ない
・会話がおかしい
・理解しにくい
などの失語症状が現れることがあります。
けいれん
比較的少ないものの、てんかん発作を起こすことがあります。
意識障害
重症になると、
・眠ってばかりいる
・呼びかけても反応しない
といった状態になり、命に関わることもあります。
頭を打ったことを覚えていないこともあります
患者さんの約3割では、頭を打った記憶がはっきりしません。
数か月前の出来事で忘れてしまっていたり、本人は気付かないほど軽い外傷だったりするためです。
そのため、
「最近様子がおかしい」
という家族の気付きが診断につながることも少なくありません。
どのように診断するのでしょうか?
診断には頭部CTが最も重要です。
CTでは、脳の表面に三日月形の血腫が確認できます。
血腫の量や脳の圧迫の程度も評価できます。
MRIを追加すると、古い血液や両側性の血腫、小さな病変などがより詳しく分かる場合があります。
治療方法
経過観察
血腫が小さく、症状がほとんどない場合は、自然に吸収されることがあります。
その場合は定期的にCTやMRIを行いながら経過をみます。
手術
症状がある場合や血腫が大きい場合には手術を行います。
最も一般的なのが「穿頭血腫洗浄術」です。
局所麻酔で頭蓋骨に小さな穴を開け、血液を洗い流し、ドレーンを留置して血液を排出します。
多くの場合、手術時間は30~60分程度です。
体への負担が比較的少なく、高齢者でも受けられることが多い手術です。
手術後の経過
多くの患者さんでは、
・頭痛が改善する
・歩けるようになる
・認知機能が改善する
・麻痺が軽くなる
など、数日以内に症状が改善します。
一方で、脳の萎縮が強い場合や血腫が長期間存在した場合には、改善まで時間がかかることがあります。
リハビリテーションを組み合わせることで、日常生活への復帰を目指します。
再発することがあります
慢性硬膜下血腫では、約10~20%程度に再発がみられるとされています。
再発しやすい要因として、
・高齢
・両側性血腫
・抗血栓薬の服用
・脳萎縮
・糖尿病
・大量飲酒
などが知られています。
手術後もしばらくは外来で経過観察を続けることが重要です。
予防するために
完全に防ぐことはできませんが、転倒予防が何より重要です。
日頃から
・段差をなくす
・手すりを設置する
・滑りにくい靴を履く
・筋力を維持する
・適度な運動を続ける
ことが予防につながります。
また、頭を打ったあとに
・頭痛が続く
・歩き方がおかしい
・物忘れが急に増えた
・手足が動かしにくい
などの症状が出た場合には、早めに脳神経外科を受診してください。
当院からのメッセージ
慢性硬膜下血腫は、高齢者では決して珍しくない病気ですが、早期に発見し適切に治療すれば、多くの方で症状の改善が期待できます。
「年齢のせい」「認知症だから仕方ない」と思われていた症状が、実は治療可能な慢性硬膜下血腫だったというケースも少なくありません。
特に、転倒後や頭を打ったあと数週間から数か月経ってから、歩行障害、物忘れ、性格の変化、頭痛、手足の動かしにくさなどが現れた場合は、ぜひ一度脳神経外科にご相談ください。
早期診断と適切な治療が、元の生活を取り戻す大きな鍵となります。当院では頭部CT・MRIによる迅速な診断を行い、必要に応じて専門医療機関と連携しながら、患者さん一人ひとりに最適な治療をご提案しています。
