2026年8月20日
「最近、もの忘れが増えてきた」「歩きにくくなった」「時々、実際にはないものが見えると言う」――こうした症状がみられる場合、レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies:DLB)の可能性があります。
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症に次いで代表的な認知症の一つです。しかし、症状の現れ方や進行の仕方には特徴があり、単純な「もの忘れ」として見過ごされてしまうこともあります。
今回は、レビー小体型認知症の特徴、症状、診断、治療について解説します。
レビー小体型認知症とは
レビー小体型認知症は、脳の神経細胞の中に「レビー小体」と呼ばれる異常なタンパク質の蓄積がみられる病気です。
レビー小体は、特に大脳皮質や脳幹などに蓄積し、神経細胞の働きに影響を及ぼします。その結果、認知機能だけでなく、運動機能、自律神経、睡眠などにもさまざまな症状が現れます。
レビー小体はパーキンソン病でもみられます。両者は共通する病理を持つため、レビー小体型認知症とパーキンソン病は「レビー小体病」という大きな枠組みで考えられることがあります。
レビー小体型認知症の特徴的な症状
レビー小体型認知症には、いくつか特徴的な症状があります。
① 認知機能の変動
レビー小体型認知症では、「今日はしっかりしているのに、別の日にはぼんやりしている」「午前中は普通だったのに、夕方になると急に反応が悪くなる」というように、認知機能や注意力が大きく変動することがあります。
この「良い時と悪い時の差が大きい」という点は、レビー小体型認知症を疑う重要な手がかりです。
② 幻視
レビー小体型認知症では、実際には存在しない人や動物などが見える「幻視」が比較的特徴的にみられます。
例えば、
「部屋の隅に知らない人が立っている」
「庭に子どもがいる」
「犬や猫が部屋の中を歩いている」
など、非常に具体的な幻視を訴えることがあります。
本人にとっては実際に見えているため、「そんなものはいない」と強く否定すると不安や混乱を招くことがあります。
幻視があるからといって必ずレビー小体型認知症というわけではありませんが、認知機能の変化やパーキンソン症状などを伴う場合には重要な所見となります。
③ パーキンソン症状
レビー小体型認知症では、手足の動きが遅くなる、筋肉がこわばる、歩幅が小さくなる、歩き始めに足が出にくい、姿勢が不安定になるなどのパーキンソン症状がみられることがあります。
特に高齢者では、「年齢のせい」「足腰が弱くなっただけ」と考えられてしまうことがあります。
しかし、歩行速度の低下や転倒が増えたことが認知機能の変化と同時期に現れている場合には、レビー小体型認知症を含めた神経疾患の評価が必要です。
④ レム睡眠行動障害
レビー小体型認知症では、睡眠中に大きな声を出したり、手足を動かしたりする「レム睡眠行動障害」がみられることがあります。
通常、レム睡眠中は筋肉の動きが抑制されます。しかし、この抑制がうまく働かなくなると、夢の内容に合わせて体を動かしてしまうことがあります。
「寝ている間に叫ぶ」「夢の中で何かを追いかけていて、実際に手足を動かす」といった症状が長期間続いている場合は、診断の重要な手がかりになります。
⑤ 自律神経症状
血圧の調節などを行う自律神経にも影響が及ぶため、立ち上がった時に血圧が下がってふらつく「起立性低血圧」、便秘、排尿障害、発汗異常などがみられることがあります。
特に起立性低血圧は、ふらつきや転倒につながるため注意が必要です。
「もの忘れ」が主症状とは限りません
アルツハイマー型認知症では、初期から新しい出来事を覚えることが難しくなる「記憶障害」が目立つことが多いのに対し、レビー小体型認知症では、初期には注意力、視空間認知、判断力などの障害が目立つ場合があります。
例えば、
「部屋の中で物の位置が分からなくなる」
「距離感が分かりにくくなった」
「複数の作業を同時に行うことが難しくなった」
といった変化が先に現れることがあります。
そのため、「もの忘れはそれほどひどくないから認知症ではない」とは限りません。
診断はどのように行う?
レビー小体型認知症には、単独で確定診断できる簡単な検査はありません。
まず、本人やご家族から症状の経過を詳しく伺い、認知機能検査や神経学的診察を行います。
さらに、MRIやCTなどの画像検査によって、脳梗塞、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫など、認知機能低下を引き起こす他の病気がないかを確認します。
必要に応じて、脳血流SPECTやドパミントランスポーター画像(DAT-SPECT)、MIBG心筋シンチグラフィーなどの検査を行うこともあります。
また、薬剤によって認知機能や意識状態が悪化している場合もあるため、現在服用している薬を確認することも重要です。
治療について
レビー小体型認知症を完全に治す治療法は、現在のところ確立されていません。しかし、症状を改善したり、生活の質を維持したりするための治療は行うことができます。
認知機能障害に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬が使用されることがあります。認知機能だけでなく、幻視などの精神症状の改善が期待できる場合もあります。
パーキンソン症状が強い場合には、抗パーキンソン病薬が検討されます。ただし、薬によって幻視などが悪化することがあるため、症状を見ながら慎重に調整します。
レビー小体型認知症では、抗精神病薬に対して過敏に反応し、強い副作用が出ることがあります。そのため、幻視や妄想などの症状がある場合も、自己判断で薬を使用せず、専門医に相談することが重要です。
薬物療法だけでなく、転倒予防、運動療法、生活環境の整備、家族への支援なども重要な治療の一部です。
ご家族が気をつけたいこと
レビー小体型認知症では、症状が日によって大きく変化することがあります。
「昨日は普通だったのに、今日は何もできない」ということがあるため、ご家族が戸惑うことも少なくありません。
また、本人が幻視を訴えた場合には、頭ごなしに否定するのではなく、「そう見えているんですね」と受け止めた上で、安心できるような対応を心がけることが大切です。
転倒も重要な問題です。歩行が不安定になった場合には、室内の段差や障害物を減らし、夜間のトイレまでの照明を確保するなど、生活環境を見直しましょう。
早めの受診が大切です
レビー小体型認知症は、単なるもの忘れだけではなく、認知機能の変動、幻視、パーキンソン症状、睡眠中の異常な行動、自律神経症状などが組み合わさって現れることが特徴です。
「最近、もの忘れが増えた」という症状だけでなく、
・認知機能や意識状態に波がある
・実際にはない人や動物が見える
・歩き方が小刻みになった
・動作が遅くなった
・転倒が増えた
・睡眠中に大声を出したり、手足を激しく動かしたりする
といった変化がある場合には、一度医療機関で相談することをおすすめします。
認知症は早期に原因を見極めることで、治療可能な病気を除外したり、適切な薬物療法や生活上の対策を始めたりすることができます。
「年齢のせい」と決めつけず、気になる症状があれば、ご相談ください。
